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白木葉子が、「ジョー」と呼んだ。
女は、高みを目指す男の妨げである。男が何かを極めるとき、雌雄を決するとき、すべてを蹴落とし頂点に立つとき、その過程で女は障害たりうる。真剣勝負に色恋や情を持ち込むのは女だ。男の夢を小さく畳んで家庭や財布にしまいこむのも女だ。
その関係を描く作家として、わたしはずっと塀内夏子を戴いていたけれど、その根源はおそらく、あしたのジョーなんだと思った。
白木財閥令嬢・葉子と、孤児の矢吹丈。
2人の出会いは、詐欺の加害者と被害者としてであった。丈が、葉子の慈善事業につけこんで、10万円を詐取したのだ。悪びれる風もなく、丈は噛み付く。
「白木財閥令嬢にとって、10万円がものの数かい。恵まれない子供を救う下町の天使なんて呼ばれて、10万円ぽっちでガタガタ言うなってんだ。いいか、その程度の金が惜しいなら、自己満足の慈善事業なんてやめちまえ」
とにかく、気に入らないのだ。裕福で美人で、そのせいでいつもとりすましたまま小手先のいい格好をしてちやほやされる葉子が。確かに丈も丈に従う子供たちも、恵まれない階層の人間だ。配るのと騙し取られるのと、結果的には何も違わないのだ。本当に貧しいものに分け与えるだけが目的であるなら、詐取によるにせよ10万円が彼らに渡ったところで、何の問題もないのだ。
葉子に何をされても気に入らない丈。その後も反発は続く。そう、宿命のライバル力石徹が現れるまで。
「へその緒を切って以来、こんなにも人を憎いと思ったことはねえぜ」とまで言わしめる相手、力石徹。彼こそが、丈にとっての運命の相手なのだ。覚えたてのボクシングで彼に立ち向かい、倒すために、勝つために拳を磨き、振るい、明けても暮れてもそればかり。先に少年院を出所した力石を追ってプロの世界に足を踏み入れ、来る日も来る日もトレーニング。人生全てを賭けて真剣勝負に挑むのだ。あいつを、ただ、憎いあいつを倒すために。
しかし、気づくのはもっと後になるが、丈の力石への思いは憎しみだけではない。全てだ。同じ高さに立って、全てをぶつけ合える相手。全力で拳を交わすことで魂で触れ合うことのできる相手。他には何もいらない。他の何も代わりにはなれない。それこそ宿命の相手。
奴が登れば自分も這い上がる。相手が来るのなら全力で迎え討つ。そうして、共に高みを目指せる相手なのだ。
果たして、四角いリングで、2人の決着はついた。試合後、初めて微笑を湛え握手を交わそうとする二人。勝ち負けはあれど、その別を超えた連帯感と充足感がそのとき2人にはあった。2人しか到達し得ない高みに、並んで立った瞬間だった。
―――が、その高みに、たった一人残されたのは丈だった。
力石の死。丈のテンプルへの一撃が、力石の命を奪った。自分が殺した。力石を。計り知れない罪悪感と絶望。生きる意味を失う丈。
その後、しばらくのブランクを経て丈はカムバックする。復帰以後毎試合連続KOで完全復活を世間に見せつけるが、それは丈の本来のボクシングではなかった。丈の築くKOの山に沸くボクシング界をよそに、そのことに気づいた人間が、3人いた。2人は、同じジムで寝食すら共にする丹下と西。残るもう1人が、白木葉子である。
丈は、力石を殺した罪悪感から、相手の顔面へのパンチが打てなくなっていたのだ。KOとはいえボディーブローだけの戦法など、丈の真のプレイスタイルでは決してない。葉子は、丈の復帰第一戦でそれを見抜く。そして、決意する。祖父の興した白木ジムを継ぐことを。
白木ボクシングジムは、元々葉子の祖父が力石の才能に惚れ込んで道楽として始めたジムである。力石徹にボクシングを極めさせるためだけに。葉子も、力石に惚れ込んでいた。彼の才能を高く買い、協力を惜しまず、毎試合足を運ぶのはもちろんのこと、減量に連れ添って自分も断食を決行するほどに。そして、力石の弱さをも受け入れる覚悟すらしていた。結局、弱さなど他人にぶつけることなく彼はこの世を去ったが・・・。
力石の死後、白木ジムを他人に譲り渡す決定を下した祖父に、葉子は申し出るのだ。「このジムを洋子にください」と。
祖父は反対する。そうでなくても、本当は良家の子女たる葉子が拳闘などという血なまぐさいものに肩入れすることを好ましからず思っていたのだから。力石亡き今、試合場へ足を運ぶのも禁じようとしていたのだから。「道楽はもう終わりだ」と嗜める祖父に、葉子は更に言う。「道楽ではありません。ボクシングに全てを賭ける覚悟です」と。
そうして白木葉子は、自らの意思で拳闘の世界へ本格的に足を踏み入れるのだった。誰のために? それは、自分のために。丈に更なる高みへ登らせるために。或いは、それを願っているであろう力石のために。
葉子は、彼らと同等にリングには立てない女の身でありながら、同じく高みを目指す。彼女も恐らく、そこを自分の足で目指し始めたのだ。自分で拳は振るわなくとも、大手ジムの会長として彼を燃えさせる方法はいくらでもあるはずだ。その為になら、自分の全てを賭けてもいいと、覚悟を決めて踏み込んだのだ。
男と男と女。恋愛を媒介としないその三角関係の一角が欠けたとき、女が男の位置をフォローできるのか? それはわからない。やってみなくてはわからない。できないかもしれない。が、その為に、女は全てを賭ける覚悟をした。
ということを重く見る人間は多くはないかもしれないが、わたしにはそういう話だとしか思えない。だってそうでないのなら、力石の登場以前になぜあれほど、丈と葉子の確執を深く強く見せつけたのか。
・・・塀内夏子さんも、同じように捉えたんじゃないかな。
ただあの人は多分(あくまで推測)、男同士の真剣勝負における女の力不足を認めざるを得ないって考えの人だから、自分で描いたらそっちよりの答えになっちゃうんだろうけど。それはそれでというか、わたし自身その答えのほうが自然に納得できるので、ずっと素直に受け入れてた。
でも、そうでない答えをしかも男の人が出してくれるなら、それは非常に楽しみです。
特定叩きっぽくなりますが、<反転>ワンピースにおける(麦わら海賊段における?)ナミは、アポロンメディアにとってのブルーローズと大体同じでは? ただの女枠。モモレンジャー。反転>
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