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中学生のとき。台風の日に、タバコを買いに行かされたことがあった。
妹とふたりで。テスト期間中だったのかな。うちに、私と妹、そしておばあちゃんとおじさん。確かこのおじさんに「お前ら人間じゃねえ!」って怒鳴りつけられた後だった。
台風の中、自転車を漕ぎ出して買いに行った。風は強かったけど、雨はそれほどでもなかった。
あっさり店に着いて、タバコを入手できて、帰らなきゃいけないのか、と虚しくなった。
正直、台風だろうと、家にいるよりは外に出たかった。道すがら、何か、何でもいいから、帰らなくて済むようなことが起こらないかと、心のどこかで期待してた。しかし起こらなかった。風に飛ばされてケガでもすれば、しばらく入院できるのに。川が増水して橋が流されたら…なんて。
でも何も起こらない。それでもどうしても帰りたくなくて、寄り道をすることにした。帰り道から外れて、スポーツ公園に寄った。
公園には、台風の雨風を凌げるような屋根はどこにもなくて、それでも、とりあえず自転車を降りて、適当なところに腰を下ろした。
妹とふたり。何も喋らなかった。いや、「帰ろうよ」って言われたかな? 妹は寄り道に反対だったかも。おじさんがキレるのを恐れてたようだった。
私はその時、雨風の中で、このまま寝てしまえないかなあと思ってた。ここで寝て、いつか何か大きな力に動かされるときまで、何も考えず脱力していたいと思った。買ったタバコが湿気らないようにビニール袋でくるんで立膝で胸に抱いて、そう思ってた。
そうだ、確か妹は何度か、帰ろうと私を促した。
帰らなきゃいけないことはわかってた。ここで仮に私が望む帰らなくて済む何かが起こったとして、それはそのとき束の間の解放を得るだけで、長期的には家族全員に悪い方に作用することは計算できていた。何であれ、間違いなくお金がかかる。当時の私には、それは何より悪いことだった。
でも、帰りたくないなあと、どうしてもその気持ちは消えなくて、それは口に出しても仕方ないことで、だから何も言わず、言う気にもならず、口を噤んだまま。そうこうするうちに、雨は激しくなってきた。それでも、帰るよりは雨に打たれていたかった。
帰らなくて済む方法を考えながら、できるだけこの自由な時間を引き延ばして、でも結局どうにもならないという答えに辿りついて、そんなことを繰り返してたら、泣けてきた。何で、帰らないといけないんだろう? どうして、家以外にずっといていい場所がないんだろう? このまままだまだ自転車なら漕げるのに、どうしてその行き先がないんだろう? どうして、帰りたくなるような家じゃないんだろう?
黙って泣いてたら、妹も泣いてて、「帰ろ」と、また言った。帰る気にはなれなかったけど、妹ひとりあの家に帰すのは姉として卑怯だと思った。
そうして、また自転車を漕ぎ出した。帰りたくない家に向かって。そしたら、もっと、泣けてきた。でも、泣いて帰ってはいけないのだ。多分、別に怒られはしないだろうけど、それは駄目なことなのだ。何とか途中で涙を押しとどめて、帰った。
みたいなことを、結局私って描いてるんじゃないかな。
私にとって、水は帰りたくない気持ちの象徴なのかも。
と、担当さんに水絡みの絵や漫画が多いことを指摘されて思った。
そして後に突然おじさんが首を吊ってくれて、それらが全て終わってくれた。終わらないと思っていたことが、当事者の死によって終わった。だから私にとって、死こそが終わり。なのかもしれない。
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